筆者の語について

 「筆者」ということばがある。ご存知だろうか。定義は「その文章・書画をかいた人。」(『日本国語大辞典』)である。「その文章」とは——。
 小論文の文章指導をすることがあるのだが、その際に「筆者」は基本的に三人称であるから、あまり一人称で使わない方が良いと伝える。それは一人称で用いられることも多いからだが、私も一人称で「筆者」を用いたいときもある。それは引用文に注を加えるときだ。ブラケット=角括弧を使って注を加えるのだが、そのときに「神[注——自然のこと]」とでも注を加えたいときに、その注の前に筆者注と入れたくなるときがある。
 この場合は「筆者」ではなく「引用者」に変えれば良い。では、凡例を書くときはどうしたらよいか。これはもう、主語を省略する方法が一番スマートなように思われる。「漢字は適宜、筆者が改めた」よりも、「漢字は適宜改めた」だけで充分ではないだろうか。
 ともあれ、やはり「筆者」は「その」であって、「この」ではないから、三人称的に用いるのが良いのだろう……。